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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(行ツ)263号 判決 1985年6月07日

大阪市東区船越町一丁目一九番地

上告人

舟瀬春男

右訴訟代理人弁護士

相馬達雄

豊蔵広倫

小田光紀

藤山利行

大阪市東区大手前之町一番地

大阪合同庁舎三号館

被上告人

東税務署長

中川清二

右指定代理人

立花宣男

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五八年(行コ)第四〇号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五九年五月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人相馬達雄、同豊蔵広倫、同小田光紀、同藤山利行の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧圭次 裁判官 大橋進 裁判官 島谷六郎)

(昭和五九年(行ツ)第二六三号 上告人 舟瀬春男)

上告代理人相馬達雄、同豊蔵広倫、同小田光紀、同藤山利行の上告理由

一、(事案の内容)

本件類似事案については、すでに、最高裁判所においてもその判断を示しているところである。上告人は、右判断が誤つたものであることを指摘し、先例判決の趣旨につきその変更を求めるべく本件上告に及んだ次第である。

本件は、数多くの不動産賃貸借業者に共通の問題であるといわねばならない。そして、保証金の授受は、不動産賃貸契約締結に際して、今日、広く一般的に行われる慣行となっている。従って、保証金の法的性質についても、取引業界においては、ほゞ客観的に確定しているものといわざるを得ないのである。

そこで、保証金とは、賃貸借に伴つて生ずべき種々の賃借人の債務を担保するために授受されるのが本旨である。決して、賃借「礼金」として授受されるものではないのである。その実態は、本件事案にも良くあらわれているところである。あくまでも「担保金」であり、「預り金」なのである。

もし、二割乃至三割が領収されるのであれば「領収金」となる筈である。

しかし乍ら、「家賃未払いで明渡拒否が長期に及んだり」「公共事業又は、家主都合による明渡請求などのため」或いは、「一〇年以上の賃貸のため」又は、「借主過失による損害賠償のため」等の理由で二割~三割の保証金取得が現実化しない場合が多いのが取引業界の常識といわねばならない。

借主は、保証金の二割~三割の差引きを覚悟してはいるものの(但、明渡時)、苦しまぎれに保証金全額返還請求権を担保に入れたり、或いは、明渡しに際して、「なんとか一割引に負けて下さい」と要求するものなのである。即ち、借主は、あくまでも「預け金」と考えているのであるし(二割引を、たとえ、承諾しているとしても)、貸主は保証金の二割を賃貸の始期に所得したものとは到底考えていないのが実状といってよい。とにかく、今日、貸借人の地位は強く、たとえ、貸借契約に違反しようがしまいが、借りた以上は「居住権」がある等と称して居座ってしまう現状にあるのである。

そして、如何に裁判をもってしても明渡しを実行し或いは損害賠償を勝ちとることは至難である。滞納家賃すら殆んどとれないのが実状ではないか。

二、以上の実態認識に欠けているところに原判決又は先例判決の誤りがあるのである。要するに先にとるべきものをとってしまおうとの収税上の実務処理が優先していると云わざるを得ない。

他になんらの根拠はないのである。むしろ、賃貸借契約書によれば明確に保証金となっており、明渡しに際して精算し、二割引をすることになっているのである。だから、「確定主義」によれば、尚更に明渡しにより、賃貸借が精算される時に保証金の二割が収入として帰属することになるのである。

だから、先に二割を取得しておいて、明渡時に足らなくなればその時に請求し、不足あれば、減額修正せよというのは余りにも収税の便宜のみを考慮したものであって、所得なきところに無理に所得を擬制し収税するものと云わざるを得ず、実質課税の原則にも違反する。

三、斯く考えるとき、本件収税の処理は、無法に近いものと云わざるを得ない。憲法二九条一項違反でありまた、所得税法三六条一項の解釈をいちじるしく誤りそのため、原審判決も誤ったものとなったのである。

更に、法人税基本通達二-一-三五の解釈を誤っていることにならざるを得ない。

是非、本件につき、再検討ありたい。課税実務上の重要問題であると思料する。

以上

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